ひねもす月
「そっと。優しくだよ」


躊躇いなく手を差し入れてカブトムシをカゴに移す。

小さな時からずっとここに住んでいるミナは、カナタよりずっと逞しくて、遊び方をよく知っている。
細い指で節のあたりを掴むと、易々と持ち上げ、首に下げたカゴに入れた。

網を使わなくても虫が捕れるなんて。
都会っ子のカナタには、ちょっとしたカルチャーショック。
向こうじゃ、部屋にハエ一匹迷い込んだって騒ぎになるのに。

カブトムシなんて、お店で売ってるのしか知らない。


「やった!!」


葉っぱを敷き詰めた虫カゴの中をゆっくり動くカブトムシに、二人で顔を見合わせニンマリ、笑う。

パチン!と一つ、ハイタッチ。
熱い中、歩きまわったかいがあったというものだ。

サイズはさほどではないものの、立派な、オスのカブトムシ。
昨日からの努力が報われた気がする。


「……さ、帰ってジュースでも飲もうか」


走り回ったせいもあるが、汗が滝のように流れてくる。
したたる滴が目に入りそうで、やはりびっしょり汗だくになったタオルで額をぬぐった。

一見平気そうに見えるミナでさえ、首筋に濡れた黒髪を張り付かせている。


< 23 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop