ひねもす月
「あー…湖、入りたい。
……でも浜まで、ちょっと遠いしなぁ…………水風呂でもいいか……」


うだるような暑さに、ただ歩くのが辛くなって、ぽそりとつぶやいた。

少し離れた畑の更に向こう。
低くなった土地の中ほどで、湖面が誘うように青く輝いている。

気持ちイイだろうなぁ。

子どもの頃、親に連れられて何度か湖水浴を楽しんだことがある。
少し冷たい水は凪いでいて、海が怖いカナタにはちょうどいいの遊び場だった。

泳ぎは得意ではないけれど、こう暑いと、昔の記憶を頼りに行ってみたくなってくる。


「ん?」


……と、ふいにミナがカナタの手をひいた。

こっち。

くいくいとつないだ手を引っ張り、案内するかのように迷いなく進んでいく。


「ちょ……ミナ、どこ行くの?もう帰ろうよ」


家とは向きが違う。
カナタがあまり行ったことのない方角だ。

今度は一体、何を思いたったのか。


「ねぇってば」


こんな時は、不便だな、と思う。
ミナがしゃべれさえすれば、教えてもらえるのに。


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