ひねもす月
幼い心を持ってはいても、ミナは頭が悪いわけじゃない。どこか、おかしいわけでもない。
言葉さえ取り戻せば、なんでも話せるようになるはずだ。
もしかしたら、心の年齢だって、一足飛びに体に追いついてしまうかもしれない。


元々は、おしゃまな女の子だった。

舌足らずのうちから、よくしゃべり、ケラケラとよく笑う子だった。


頭が良すぎたんだろうな。

カナタは思う。

年齢のわりに、頭が物事を理解し過ぎたのだ。
両親の死も、ダイチの死も。
でも、その現実を受け止めるにはまだ、感情は未熟過ぎて。

バランスが、とれなくて。

きっと、だから自分を守るために、幼子の殻の中に閉じこもっている。


紙一重なんだ。


ミナも。

引きこもりだった自分の今の生活が、祖母とミナのおかげで辛うじて成り立っていることを、カナタは知っている。
小さなきっかけで……どっちに転ぶかわからない。

薄氷を踏むような毎日。

穴が開いてしまえば、あとはただ崩れるのみだ。

しかし、それはカナタだけじゃあ、ない。
危うい綱渡りをしているのは、祖母も、ミナも、だ。

それでも、永久を願わずにはいられない。

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