ひねもす月
ミナは……カナタ以上に危険な橋を渡っている。

それは、この世とあの世の架け橋のようなものだ。
一歩踏み違えれば、何が起こるか、わからない。


「ミナ、帰ろうよ」


カナタが本気で抵抗しないから、ミナはずんずん、先に進んで行く。

はっきりと、目的をもっているのだろう。
迷いのない足取りで、どこかを、目指す。

いくら細身で非力でも、カナタがその気になれば、ミナを引き戻すのはそう難しいことではなかった。
けれど、元々の気の弱さと、かわいい妹への愛情で、どうにも、力を入れることができない。

ミナが行きたいなら。

つい、そう思ってしまう。


「どこまで行くの?」


田んぼの終わり、長く茂った夏草をかき分けながら、まだ、進む。
点在する雑木林や杉の木立に視野を邪魔され、いまいち、方向感覚がつかめない。

ただ、もう、だいぶ歩いた気がした。


すぐそこ。


ミナのそんな素振りも、幾度目か。


「ぅわっ!!」


雑草をかきわけることに気を取られて疎かになっていた足元に、じんわりと水がしみる。
また田んぼがあるのだろうか。
草に覆われた地面は、湿っていて、よく見ると、あちこちに小さなぬかるみがあった。




< 26 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop