ひねもす月
この系列のペットショップは水中の生物も多く取り扱っている。
熱帯魚、高級魚、爬虫類に両生類。その売り場は広大で、ちょっとした水族館のようだ。

さすがにイルカやペンギンを見せてやることはできないけれど……そこは、店内のかわいらしい小動物たちで我慢してもらおう。


「あ、見てごらん。クマノミだ」


ミナは顔を輝かせて、次々と水槽を覗いてまわる。
グッピー、アロワナ、錦鯉。
水槽掃除用と名札に書かれた小さなエビには、キャッキャと声をあげて笑った。


こんなものまで売ってるんだ。
水槽といえば縁日の金魚くらいしか思いつかないカナタも、次第に楽しくなってくる。

魚の名前を確かめながら、二人であちこちの水槽を見て回った。


「うわぁ……ちょっと気持ち悪いかも……」


ミナがぴたりと立ちどまったのは、通路のつなぎにおかれた、少し大きめの水槽の前。

中では、一時のヒーリングブームで家庭用にと流行ったクラゲたちが、所狭しと揺れていた。

わずか数センチの小さく白い体がふわふわと漂う様は、風に吹かれる花びらのようで美しい。
……しかし、如何せん、数が多かった。

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