ひねもす月
きれい、と思うより先に、カナタの目にはこの大群がグロテスクに思えてしまう。
以前理科の授業でその成長過程を習った時から、どうもクラゲは好きになれない。


「昔話であったなぁ……。クラゲもね、昔は骨があったんだって。でも、神様との約束を破ったから、骨を抜かれちゃったんだってさ」


頼りなく、水に揺られる傘のような生き物。

何がそんなにおもしろいのか、ミナはじっとクラゲの水槽を覗き続けている。


そういえば……。

思い出す。

最近外遊びばかりしていてあまりミナの絵を見る機会がなかったから、忘れていたのだ。


画用紙の片隅に必ずのように描かれていた、白く丸いクラゲ。


好き、なんだろうな。

カナタにはその良さがよくわからないが。ミナにはきっと素晴らしく見えているのだろう。


あれ……?

違和感。
でも、この反応は……。


「もしかして、本物見るの、初めて?」


あまりの熱中ぶりに返事を期待せず訊いてみる。
と、小さな頷きが返ってきた。


「そっか」


……なら、まぁ。
釘付けになるのも仕方ないか。


「本物の水族館に行くとね、いろんな種類のクラゲがいるんだ。逆さまに泳ぐヤツとか、ピンク色のヤツとか」


小さい頃遠足で見た光景を思い出した。

数えきれないほどのクラゲがいくつもの水槽を埋め尽くす姿。

みんな、歓声をあげていたっけ。

でも、やっぱり一番人気はラッコとかアシカとかだったな。

マンボウも大きくてインパクトがあったし。



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