ひねもす月
誰かにとられたら、とか、そんなことじゃなく。

もっと根源的な。


ミナが、こっちを見なくなったら……。


そんなこと、有り得ない。
思うのに。


ミナはダイチのものだ。

ダイチ亡き今、ダイチのかわりのカナタだけが、ミナのすべてになれるのだ。


「だって……高田さんは?」


苦し紛れに、ふと思いついたことを口に出す。
言っていて、これこそがこの会話を終わらせる糸口だという気がしてきた。


「あぁ?アレは……まぁ、おいとけよ」


「……おまえの悪い癖だな」


やや不機嫌に割り込んできてくれた沢井くんを、阿部くんは「まぁまぁ」と軽くいなす。


「例えば、の話しだよ」


ごまかすように笑ったけれど、本心はわかったもんじゃない。


もし、阿部くんがミナに迫ったら……。


ミナが受け入れることはまずない。
しかし。


はぁ……。

こんなことなら、連れ出すんじゃなかった。

大切に大切に、手の中に囲っておくんだった。


カナタの中で、ミナは唯一、汚してはならないものだ。
無垢で、まっさらな、世の中から隔絶された存在。


カナタがいらないことを気にしてしまったがために……。


そんな清らかな彼女なのだ。何を着ていようが、関係ない。
見た目なんかどうだって構わないのに。


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