ひねもす月
「さてと。ジーパンはそれでいいよな。
ほら、こいつでどうだ」


一通りコーディネートされた服とともに試着室に追いやられる。

襟元のきっちりしたシャツにベルト。ついでに、ハット。
モードな雰囲気のそれらをカナタが選ぶことは、普段まずない。


はあぁ……


仕方なしに着替えながらも、その心は重かった。
まるで、暗闇を一人さ迷っているような気分だ。


なんなんだろう……。

自分で自分の気持ちが、わからない。


あんなに特別なのに……崇高とすら呼べそうなほどの気持ちなのに……。


今のこの、嫉妬にも似た想い。


独占欲、というのだろうか。


はぁぁぁ……


疚しいことはないはずだった。のに。

おかしい。


阿部くんの言葉に、心が揺れている。


「お、やっぱりー」


「ほっそいヤツはこういうの似合うからイイよなぁ」


「育ちが違うってか」


頭の中がぐるぐる回ってまとまらない。
それでも、体は事務的に着替えをこなし、カーテンを開けていた。


「いいよな~、オレもキャーキャー言われてー!」


ふざけ合う彼らの声は、意味をなさない文字の羅列だ。



< 48 / 83 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop