ひねもす月
「かわ、いい?
す、き?」


錯覚、じゃない。


「ミナ?」


なぜか一度ちらりと女の子たちを振り返って、ミナはまた、ニッコリ微笑む。


「か、わい、い?」


「…………かわいいよ」


言っていて、自分の頬が熱くなっていくのがわかる。

ミナはどうやったのか、新しく言葉を覚えた。

すごいことだ。
奇跡に近い、と思う。

でも、一方で、それ以上に、会話の中身に動揺してしまった。


--かわいい

--すき


深い意味はないのだ。
そんなこと、わかってる。
小さい子が新しい服を着て、みんなに御披露目するようなもの。


ミナはかわいいよ。

ミナのこと、大好きだよ。


兄として、軽く言えばいいだけなのに。
なぜこんなにも意識してしまうのだろう。

カナタは周りにばれないように、拳を握った。


「おにいちゃん、すき」


無邪気な笑顔。

もしここに他に誰もいなければ、衝動的にミナを抱きしめてしまったかもしれない。


「やっぱ、なんかあやしくね?」


「…………あ、ごめん、バスの時間だ」


ニヤニヤとする4人に、カナタは無理やり別れを切り出す。
一緒にカラオケに行かないかという誘いを、祖母が心配するから、と断った。


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