ひねもす月
大きな瞳を縁取る長い睫毛の一本一本まで、はっきりと見えそうだ。

あどけない表情を浮かべるミナと反対に、カナタはカッと頬を染めて飛び起きた。

紅く柔らかそうな唇が眼裏にこびりついて離れない。

心臓が早鐘を打った。


17歳と、16歳。


「入ろっ……か……」


一人だけ動揺しているのが余計に恥ずかしくて、居心地が悪い。


ミナの中の時計は、7歳のままで止まっているのに。

カナタが、ミナの兄のダイチと同じ、8歳だった、あの日のままで。


赤い顔を見せないようにぷいと前を向き、静かに、ミナの手をひいて家に入る。

さっきまでミナは絵を描いていたのだろう。
この家の臭いかと思うほど、染み付き馴染んだ水彩絵の具の臭いが、体を満たした。


「今日は何を描いたの?」


ミナは昔から絵を描くのが好きだった。

小さい時から、外でダイチと走り回るか、家で絵を描くかの日々。
カナタは祖母の家に遊びにくるたびに、やんちゃなダイチに振り回され、ミナの絵に感心させられたものだ。



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