ひねもす月
熱い……熱くて……寒い。


「ぅあああああ!!」


カナタはバッと縁側を飛び降りた。
足の裏に焦げそうな熱を感じる。

でも、だからなんだ。

弾かれるように走り出す。


「彼方!!」


祖母の声が背中を追ってきたような気がした。

それでも、カナタはひたすらに、がむしゃらに走り続ける。

目的があるわけでも、考えがあるわけでもなく。


いてもたってもいられなかった。


勢いよく荒れ狂う何かが、カナタの体を突き動かしている。

自分でもわけのわからない、強い何か。

爆発する--。


「あ゛あ゛あああっ」


猛り狂う。


ゼィゼィと鳴る喉に、苦しくて走るのをやめた。

でも、まだまだ止まれない。


手近な草をむしり、踏みにじる。


こんな暑い真っ昼間には畑仕事をしている影もほとんどない。


気づけば、カナタは湖に向かっているらしかった。

背丈の高い草むらをかきわけていると、ピシリ、指に痛みがはしる。怒り任せに手を引けば、親指の股に淡く血が滲み始めていた。


「………………」


痛みのせいか、疲れのせいか。

徐々に、興奮していた心が治まってくる。
吹き荒れていた嵐が通り過ぎて行くように。

頭が、考えることを思い出した。



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