ひねもす月
おにいちゃん失格だ--。


夢を、自ら崩してしまった。


下手をすれば、バレてしまったかもしれない。

ダイチではない、と。


カナタは、ミナが慕うに相応しい相手じゃない。
情けないヤツだ。
おにいちゃんの、皮を被っているだけ。


認めたくなかった。まっとうなヤツになったと、ミナに必要とされて当然の存在になれたと、自分でも信じ込もうとした。
それなのに。


はあぁぁぁ


無意識のため息は、尽きることがない。

所詮、カナタがダイチの代わりになろうと考えるなんて、無謀だったのだ。


はあぁぁぁ


ぼんやりと、空を仰ぐ。

色の薄い空は風もなく、同じように薄い雲をゆっくりと漂わせている。


裏腹だ。

カナタは、心の中を嘲笑い、目を閉じる。


「おにいちゃん」


ふいに、幻聴が聞こえた。

女々しさに、我ながら泣けてくる。


「おにいちゃん」


風に乗って流れてきたような、ささやかな幻。

もはや、呼ばれることは叶わないかもしれない。


再び瞼を上げれば、遥かな空には、白い月。おぼろげに、日がな一日そこにあるのだろう。

優しく、淡い……ミナの見惚れた、真昼の月。


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