ひねもす月
「何言われたの?」


カナタどころか、ミナまでも……。


小さく首を横に振るミナに、あんなヤツ庇うことないのだ、と諭す。


「おにいちゃん……」


しかしミナは、ただ、小さく繰り返すだけ。

しがみつく腕がゆるむこともなく。


「ミナ、ごめんね」


そのいじましい姿を見るうちに、自然と口をついて出た。

いろんなことがごちゃまぜになった、「ごめん」。

謝らなきゃならないことが多すぎて、どう言えばいいのかわからない。


ミナは、ショックを受けているのだろう。
思った。

母のことだ。カナタがいなくなるとか、ミナのせいでカナタがおかしくなったとか、あることないこと言ったに違いない。

きっと、そうだ。


「迷惑、かけちゃったね」


ごめん。


「ところで……」


やはり、さっきの自分の姿が気にかかる。


「……オレの声、聞こえてた……?」


どうか、聞いていませんように。

恐る恐る問いかける。


……と、小さく、こくりと頷いた。


「聞いた、の?」


声が掠れる。


じゃあ、この涙は……。

カナタの、せい?


カナタの姿にショックを受けて、混乱して、カナタを責めにきた……?


奈落につきおとされた気分だった。


「……おにいちゃん、す、き」


しゃくりあげる声に、さらに目の前が暗くなる。


好き。


あれでも、まだ。


好き、と叫ばんばかりに繰り返すミナに、心が痛んだ。



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