ひねもす月
カナタは、ミナの背中にまわした腕に、力を込めた。

ぎゅっ、と強く抱きしめる。


「おにいちゃん?」


細い首筋に顔を埋めると、きょとんとした声が耳元で響いた。
しかし抵抗することはなく、むしろミナは、新しい遊びでも見つけたかのように嬉々として、自分もカナタに抱きつき返す。


「カナタ、だよ」


「カナタ」


「そう」


甘い香りが鼻腔を満たした。
柔らかく儚げなのに、腕の中には、確かに実在する手応え。
子どもなんかじゃない、現実のミナのしなやかさ。

その感触に、心臓が締め付けられた。


切なくて、愛しくて。
心が乱れる。


このまま、ミナを連れてどこかに逃げてしまいたい。

誰も知る人のない場所で、カナタだけの世界に閉じ込めてしまいたい。


「カナタ、カナタ」


ミナは、また、言えるようになったばかりの音の響きを楽しむように繰り返す。


「好きだよ、ミナ」


とどめようのない想いが口をついて出た。


「大好き」


かけがえのない、ミナ。
大切な、大切な、ミナ。

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