ひねもす月
「あ」


道中で荷物の下敷きになってしまっていたらしい。


いい加減後ろ、片付けなきゃな。

本やら靴やら。
学校用にと思って積んだままの雑多なものたちが、つばの広い麦藁帽子を押し潰している。


「怒るかなぁ?」


カナタは、ミナが絶対に怒らないことを知りながら、癖のように独りごちた。

巻かれたリボンに少し皺がついただけで、帽子自体は大丈夫。


指先でくるくると回しながら、スイカの待つ茶の間に入った。


開いた窓から気持ちの良い風が抜けていく。
その心地よさに、思わず、ふう、と息をついた。


「変わったことは?」


早々とスイカにかぶりついていた祖母が、どさりと座るカナタに尋ねた。

隣ではミナが丁寧に種を取りながら、夏の甘みを楽しんでいる。


「ん。全然。
ミナもいつも通り」


「……そう」


また今年も、夏が来た。


去年。
高校最後の夏休み。

明けると同時に、カナタは一度家に戻った。

元いた学校に転入し直し、今は、大学1年生。



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