ひねもす月
文系だった選択教科を理系に変えて、死に物狂いで勉強した努力が、実った。

祖母の家から、車で片道30分。
カナタは再び、ここに住んで学校に行く。


堂々と。
自分の、意志で。


知名度こそ高くはないが、国立大。特に、カナタの入学した工学部はその世界で有名らしい。

それなら……と、母もこの選択を認めてくれた。


しかし当然、授業は一般教養科目でさえも、理系ばかり。
ついていくのが精一杯の毎日だ。

間もなく、テストシーズンがくる。
考えると頭が痛い……が、カナタの心は、明るかった。


「あ、お皿そんな端に置いたら危ないよ」


ミナのそばにいるためなら。

そのくらい、苦労のうちには入らない。


「ほらミナ、ちゃんと見て」


つけっぱなしのテレビに気を取られて疎かになった手元を、注意する。

カタン

落ちそうになっていた皿を直してやると、ミナは何事もなかったかのように、またゆっくりと味わい始めた。


「そうそう。ちゃんと顔をお皿に近づけて」


去年カナタがいなくなってから、ミナは……一言もしゃべっていない。


朝起きたらカナタがいなくて……丸一日泣いて暴れて。

祖母に言わせれば、ふっつりと。
電池が切れたようになってしまった。


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