ひねもす月
「おいしいね」


もう、カナタを兄と慕うミナはいない。


祖母もカナタも。新聞配達員でさえ、今のミナにはまったく一緒だ。


笑顔という名の鎧をつけて。その中には、誰一人、入れてはくれない。


--前よりはマシだわね。


がっかりしていた祖母は、それでも、昔を思い出してそう言った。


--笑ってるだけ、良しとしよう。


無駄ではなかった。

そう思いたい。


カナタを変えたあの、数ヶ月。


例え覚えていなくとも、ミナにも、何かが残った、と。


忘れられ、十把一絡げにされたことが、ショックでないと言えば、嘘になる。


けれどあの時、カナタは心に誓ったのだ、から。


「さ、ミナ。お墓行ったばっかりだけどさ。ダイチたちにもスイカあげようよ」


以前のミナならば、怖がって近づかなかった、奥の部屋。

皿に乗せたスイカを渡し、仏壇の前に座らせた。


「そこに置いて。そう」


教えられた通りに手を合わせる姿に、かつてのお転婆の影はない。




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