ひねもす月
「……足?」


いつもの、見慣れた白いクラゲ。

いつでも描かれた、ミナのサイン。


だけど。
まん丸なそれに、なぜか、足が生えていた。


「………………」


角度を変えて、幾度も見てみる。

なんで今更?


以前のスケッチブックを押し入れの中から持ち出した。

いつから、こんなだったっけ……?


何かが胸にひっかかる。


青い空の、まん丸い白。


青い空の、足のある白。


調べてみれば、確かに去年の秋頃からの…………。


「……これって…………」


ずらっと並べた、スケッチブック。


「まさか……?」


……いや。ありえない。


浮かんだ思いに首を振って、ミナの手元を、覗き込んだ。


「何、描いてるの?」


ひまわり畑と湖……そして、そこにもやはり、淡く白い、足つきクラゲ。


--おにいちゃん、かわいい?


ふいに、耳元で聴こえた気がした。


あの時浜辺で、月を見ながらはしゃいでいたミナ。


「…………月?」


まん丸い。
儚げな。


古い古いスケッチブックに、描き出されたのはクラゲによく似た、まぁるい、月で……。

昼間の空の。

ミナの愛でた、白い満月。


「…………ミナ……?」


声が、震えた。


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