Paradise Jack
アパルトマンは、町の高台にぽつんと建っている。
煤けた赤レンガ造りで緑のツタが這うアパルトマンは、古めかしくてこじんまりとしているが瀟洒で温かみがあった。
路地に面した5階の大きな窓から、クリーム色のカーテンがはためいている。
急ぎ足で階段を上って、ドアベルを鳴らすも反応は無し。溜息をついて、彼女から預かっていた合鍵を差し込んでドアを開けた。
彼女の部屋は面白い。
この空間には、彼女が好きなものがぎっしりと押し込まれている。
例えば、キッチンに並ぶファイヤーキングのマグカップ、グスタフスベリの食器、ベネチアンガラスのシャンデリア…。
人の気配はなく、つけっぱなしのテレビの音だけが聞こえた。