Paradise Jack
会社をクビになってから、気づけば季節がひとまわりしようとしていた。
つまりはナナが来て1年経つということなのだけれど、ナナは相変わらずの調子でわたしの部屋に居座っている。
何をしているのかは知らないけれど、時折ふらりといなくなり、また暫らくすると戻ってくるのだ。
まるで気まぐれな猫のよう。
そして、わたしはといえば、貯めたお金を崩しながら生活しつつ、酸素の薄い世界から逃避するために、小説を書くようになっていた。
掻き集めた原稿を枕元に広げて、1本100円のボールペンを握る。
となりから、ナナのつまらなそうな視線を感じながらも、次々と頭に浮かぶ言葉を文字という形にしていく。
「シュウ」
「…おもい…」
寝転ぶわたしの背に、ナナがのしかかった。
文字がぐにゃりと歪んで、ペン先がぶすりと原稿に小さな穴を開けた。