Paradise Jack
驚いて振り返れば、ナナが小さく笑った。
「出版されるんだって?酷いよ、シュウ。ずっと一緒にいるのに、俺には何も教えてくれない」
そんなことを言うナナは、初めてだった。
わたしたちは、お互いの人生に干渉しない。それは、ナナがこの部屋に来たときに自然と生まれた暗黙のルール。
だから、わたしはナナがこれまでどういう道を歩んできたか聞かないし、ナナもわたしについて何も知らないのだ。
「…知りたかった?いつもわたしが何してたって興味なさそうだったじゃないの」
「今、知りたくなったの。なんだか急に…」
甘え上手なくせに、どこか心を鎖している。猫は人ではない、家につくのだという話を知っていたから、きっとナナがこの部屋にいるのはそれに近いことなのだと思っていた。
なのに。
今のナナは、随分心細そうで、まるで置いていかれることを恐れる子供のようだった。
「急に、何?」
その細く長い腕に、ぎゅっと閉じ込められた。