Paradise Jack
「いいの、」
「勿論。けど、正直この小説が売れるとは思わないの」
「…シュウの小説は、確かに文章は上手だけど、結局シュウが息をする為だけに存在してるもんね。それにしても、このカバーの写真は最高に綺麗だ」
「シエナっていうフォトグラファが手がけてくれたんだって」
「ふーん」
まじまじと本の表紙を見つめるナナ。
彼の言葉は、とても意外だった。まさか、この子が、わたしの小説を読んでいたなんて。わたしはずっと知らなかった。
「ねえ、シュウ。サインちょうだい」
「うん」
わたしは、サインペンをとって背表紙を開く。
"小林秀宇"
そして、一文、メッセージを添える。
生まれて初めてのサインは、なんだか右上がりになってしまい、全然上手に書けなかったのに、ナナは随分嬉しそうな顔でそれを受け取った。