Paradise Jack
にんまりしているナナを無視する。
このままだと、また彼のワイズクラックに翻弄されて一日が終わってしまう!
原稿用紙とボールペンをバックに詰め込んで、ショールを羽織る。
ナナを黙らせるように小さくキスをして、そのまま部屋を出た。
コツコツと足音を立てながら階段を降りれば、管理人の薫子さんがひとり箒で玄関の掃除をしていた。
「薫子さん、こんにちわ」
「あらシュウちゃん。今日はひとり?」
「うん。これから、図書館へ行こうと思って。部屋だとナナが邪魔ばっかりするから」
「ふふふ、想像出来るわね。でも、ナナちゃんは最近何かあった?」
薫子さんが言うのに首を傾げる。
「何かって、家ではフツウだけど…」
「ここのところ、見かける度にどこか思いつめた表情(かお)をしていたから、つい声を掛けそびれちゃって。でも、余計なお節介よね。ごめんなさい」
「…いえ。わたしも、ナナも、薫子さんには甘えてばっかりです」