Paradise Jack
凛香さんが死に、父親も仕事の関係で渡伊してから、わたしはずっとひとりだった。月に一度、口座に振り込まれるお金と僅かなバイト代での生活に途方に暮れていたわたしに声をかけてくれたのが、薫子さんだった。
高台にある小さなアパルトマン。
その一室を、フツウであれば到底借りることの出来ないような格安の家賃で招き入れてくれたのだ。
"あなただけが特別じゃない、このアパルトマンにいる人間は皆それぞれにワケがあるの"
そう言って、鈍い銀色の鍵をわたしに手渡してくれた。
契約書に判すら押すことはなかった。
「…いつか、あなたに恩返しをしなくちゃ」
薫子さんは困ったように首を横に振りながら、"そんなこと考えないで"そう言って小さく微笑んだ。