Paradise Jack

図書館を飛び出して、近所の本屋で同じ雑誌を買う。

そのまま駆け足でアパルトマンに戻る途中、サンダルが石畳に引っかかって思いきり転んだ。



「うぎゃっ」



一面に書きかけの原稿をぶちまけて、真っ白い海が出来る。ガサガサと掻き集めて、鞄の中に押し込んだ。

…おとなになって転ぶって、滅多にない経験だ。


だらだらと膝から血が流れるのを掌でぬぐって、道端にすっ飛んだサンダルを拾う。


痛みさえも、感じない。
ただ、久し振りに走る所為で、酷く息が苦しかった。ぜえぜえとみっともなく肩で息をしながら、長い坂道を駆けた。


ようやくたどり着いた部屋、ゆっくりと鍵を開け中へ入る。
夕暮れの、オレンジ色した光が差し込むそこは、酷くもの寂しく思えた。


変だな。
ナナが来てから、そんなことを思うこと、無くなったはずなのに。

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