Paradise Jack
「暮野皐月、がナナの本当の名前?」
「…その名前、嫌いなんだ。シュウには、ナナって呼んでもらえる方が嬉しい」
「女の子みたいだって言ったくせに」
「シュウは、ネーミングセンスが無いよ」
くすくす笑いながら、ナナの腕の中に閉じ込められる。ナナがつける、香水の匂いをクンと嗅ぐ。この先、忘れることのないように。
「…ねえ、シュウ」
「うん」
ゆっくりと瞼を持ち上げて、ナナを見る。
薄茶色が、部屋のイエローライトを映してまるで淡いキャンドルが揺れているようにみえた。
柔らかく細められるソレ。
ナナの言葉を待つ。
その先は、もう知っているけど。
「4月の1番最初の水曜日、俺はこの部屋を出るよ」
「そっかあ」
「あれ、そんだけ?おかしいなあ。ここで、シュウが号泣する流れなんだけど」