Paradise Jack
いつもと同じ軽口。
にっこり笑って、ナナの頬を思いきり引っ張ってやる。
「いひゃいいひゃい」
「生意気な口聞くからです。ねえ、どこに行くの?」
ナナは、口角を上げて、大きなトランクから一冊の本を取り出す。まだ、世間に出回っていないわたしの本だ。
表紙をわたしに見せる。
「シエナ・ローザに、会いにいこうと思って」
「…ええ、それ、マジで!?」
「マジも大マジ。彼女の写真は、凄いよ!」
「ふうん。へえ。あっそう」
「わー、冷たい反応」
出版の記念にと、フォトグラファの"シエナ・ローザ"から直接贈られた、表紙と同じ大きな写真は、お洒落な額に入れて壁に掛けられている。