Paradise Jack
ナナは最後、トランクを片手にわたしを見上げて手を振った。
まるでちょっと近所に出かけるくらいの、軽い感じで。
だから、わたしも。
『またね』
それだけ言って手を振り返した。
そんなわたしに、ナナは満足げに笑って背を向けた。
舞い落ちた花弁がつくる美しいピンクの絨毯を、なんの躊躇いも無く踏みしめるナナの姿を目に焼き付けた。
開け放たれた窓からは、まどろむような春の風に混じり桜色が吹き込む。短くなった煙草を亜灰皿へと押し付け、落ちたソレを拾い集めていれば、ソファの上にあった真っ白い封筒と、赤いリボンのかかった小包が目に入った。
こんなものを、ナナが残していったなんて知らなかった。
わたしは、糊付けされた封筒をびりびりと破き、中身を取り出す。
そういえば、ナナが書く文字というのを、わたしは初めて目にすることに気づいた。
ふわふわと、地に足の着かないようなあの子は、わたしなんかよりも、ずっと綺麗で丁寧な字を書くのだ。