Paradise Jack
サンダルを引っ掛けて、部屋を出る。
梅雨の明けた真っ青な空に顔を顰めながら、なんの目的もなくただ土手沿いをのんびりと歩く。
いつものように商店街でコロッケを買って頬張り(…そういえば、これナナの大好物だっけ)、八百屋のおばちゃんと他愛もない世間話をした(おばちゃんは、桐生なんちゃら?とかいう俳優に夢中らしい)
何も変わらない。
あの部屋で共に過ごしたナナの時間は、さらさらと流れ始めたけれど、結局わたしは何一つ。
立ち寄った古本屋の片隅。
そこに積まれていた本を、暫らくの間、ただジッと見下ろしていた。
「…シュウちゃん?」
後ろから、ポンと手を叩かれてハッとする。
慌てて振り返れば、そこには柔らかい笑みを浮かべた薫子さんが立っていた。