Paradise Jack
こうして、古本屋の片隅で埃を被っているのを見ると、ずきりと胸が痛むのだ。
「出版社、潰れちゃったんですよね」
「え?」
「元々、経営が危なかったらしくて。最近、電話出るのも億劫でずっと無視してたんですけど、こないだやっと受話器をとったらそんな話でした」
「でも、この本がこうして表に出たのは、事実じゃない」
「…薫子さん。わたしが本を書くなんて、誰にも言わないでください。わたしは、これまでもこれからも、自分のためだけに文章を書くんです。作家なんていう立派なものじゃない。ナナは小林秀宇に期待してくれたけど、そんなものに答えられる自信もないから」
「シュウちゃん」
にこりと笑って、薫子さんに頭を下げた。
そしてそのまま彼女に背を向けて足早に店を出る。ただ真っ直ぐに歩いて、がちゃがちゃと乱暴に鍵を開けて自室のベッドに飛び込んだ。
心の中は空っぽで、酷く息苦しい。
じわりと涙が浮かんでそのままシーツに染みをつくった。なんでこんなものが流れるのか理解出来なくて、ごしごしとシャツの袖でそれを拭う。
「何か書こう」
どんな話がいいだろう。
この空虚を満たすには、どんな言葉で世界を飾ればいいのか。