Paradise Jack
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資料と本が乱雑に突っ込まれた本棚を、左上からゆっくりと指でなぞりながら移動する。
夜明けの銀、名残夢、ある朝のスープ、バスルームに纏わる小話…。
並ぶそれらは、小林秀宇がそれまでに執筆し世に送り出してきた本達だ。
その中の一冊を手にして、ぱらぱらと捲る。
渡米してすぐの頃は、味気ない横文字ばかりに嫌気がさして、よく彼女の本を捲ってはその世界に逃げ込んでいたっけ。
懐かしさに浸りながら、別の本を抜いた拍子に間に挟まっていたらしい一枚の封筒と写真が床に滑り落ちた。
拾い上げたそれは、イタリアからのエアメールだった。
「…Satsuki Kureno?どう考えてもニホンジンだよな」
捲った写真。
本や資料に埋もれるように、こちらに背を向ける女性。腰まで落ちる伸ばしっぱなしの栗毛。
その手には固くペンが握り締められていた。
薄暗い空間に、窓から入る僅かな光を受けるその絵に思わず魅入ってしまう。