Paradise Jack
言っても言ってもなかなか筆の進まない作家のひとりから、期限ぎりぎりとなってようやく入稿があった。
赤色ボールペンを右手に、誤字やら脱字やらにチェック、疑問点、矛盾点についてメモ、ひたすらその作業に没頭していた。
―ああ、首筋痛い…。
そんなことを思いながら時計を見れば、時刻は深夜2時を回っていた。
空あくびが立て続けに口を出て、いい加減あたまも朦朧としてきたので、デスクを離れて喫煙所へと向かう。
といっても、この小さな出版社が入る雑居ビル内に喫煙スペースがあるわけもなく、階段をのぼり屋上へ出たところにスタンド灰皿と色あせたベンチがふたつ置かれている。
自動販売機で買った缶コーヒーを片手に、一息つく。
ポケットから出したのは、少し前に怜から押し付けられた煙草。ラッキーストライク。
口に咥えて、火をつける。
味わいながら吸いゆっくりと吐き出せば、独特のフレーヴァーが鼻を抜けていく。無心になれる唯一の瞬間。ぼんやりと暗闇に漂う紫煙を眺めていると、ガチャリとドアが開く音がした。
振り向けば、そこにいたのは同じ部で7つ年上の編集者である木本さんが立っていた。