Paradise Jack
「静香はさあ、確かに不況の煽りをモロに受けた星とヒバリに、小林秀宇という活路を開いた救世主だ。けれど、このままじゃ折角の金脈もすぐに枯渇してしまうよ。・・・それこそ編集者の名折だ」
彼は、俺が星とヒバリに入社した時からずっと、いわゆる敏腕編集者と呼ばれる存在だった。仕事に対して決して妥協をすることなく、確実に部数という"数字"をあげていく。
持ち前のコミュニケーション能力で人脈も幅広く、売れる小説を本の中だけに留めることをしない。ドラマ、映画、過去には大掛かりなタイアップなどにも携わっていた。
そんな木本さんからしてみれば、俺のやり方が気に食わないのは分かる。
彼が言いたいことだって理解しないわけじゃない。
「けれど…。俺達の都合で、作家ひとりを殺すわけにはいきませんから」
「そんなことを言っているから駄目なんだ、お前は。作家を守ることと、甘やかすことを、履き違えるなよ。そんな調子じゃ、気づいた時には全部失っているかもしれないよ」
ぴしゃりとそう言い放って、飲み干したコーヒーの缶をゴミ箱に投げ捨てた。
出口でふと立ち止まった木本さんが、視線だけをこちらに向けた。