Paradise Jack
失礼します、頭を下げて扉を閉めた。
まるで逃げるように足早に会議室から離れて、編集部に入る。編集担当とスタッフ合わせて15名弱が仕事をするオフィスに人は疎らだった。
溜息をついて、席につく。
先程の勝ち誇ったように俺を見据えた木本さんの表情を思い出して、自然と眉間に皺が寄る。
決して彼が嫌いだとか、そんなんじゃない。
ただ、燻るような苛立ちと、自分の無力さに吐き気がするのだ。
崩れ落ちるように椅子に座れば、給湯室から戻ってきたらしい同僚の橘が驚いた顔で俺を見た。
「おつかれ。随分長い会議だったんだな」
「…あァ、はい」
「おいおい、どうした。静香にしては随分苛立ってんじゃね」
マグに口をつけながら、視線だけを持ち上げる。
朝に淹れたブラック珈琲はすっかり冷め切っていて不味い。思わず眉間に皺を寄せてデスクに戻した。