Paradise Jack
想定通りの反応だった。
シュウはどちらかといえば変化を嫌う人間で、これだけベストセラー作家としての名声を得た今も、欲がない。
その実、じぶんが大切にしているものを傷つけられることを酷く怖がるきらいがある。
彼女の住むアパルトマンも、愛用している万年筆も、自身を取り巻く環境もすべて同じ。言うなれば彼女にとってそれらはもれなく特別なのだ。
それ故、容易に他人を踏み込ませることは滅多にしないし、(…どういうわけか、怜のことは気に入っているみたいだけれど)小説を書くときのスタンスも、根本的なところは今も変わっていない。
俺には、まるでぎりぎりに張り詰められた感情を吐き出しているように見える。
それを、綺麗に纏めて、形にさせるのが俺の役目。
彼女と出会ってから6年、ふたりでようやくここまで辿りついた。