Paradise Jack
「…それでね、そのとき静香ったら…、ァら?」
シュウが不満気に口を尖らせながら、ウィスキーボトルを逆さまにした。
ベストセラー作家と、今をときめくハリウッド俳優を揃えた豪華な鍋パーティのくせに、仕事の話など一切出ない。取り留めのないような雑談ばかりをするうちに、ボトル1本があっという間に空いてしまった。
怜がゆっくりと立ち上がる。
「いいよ。外で煙草吸いたいし、ついでに何か買ってくる」
「怜ちゃん、まじで!気が利くーう」
シュウはアルコールで頬を染めながら、嬉しそうに微笑む。俺は、気怠るそうに長い黒髪を耳にかけ玄関へと向かう怜のあとを追った。
「…一緒にいきますよ」
「はあ?別にいいよ」
「こんな夜に女性ひとりで出歩くのは危険ですから。最近、不審者も多いみたいですし」
にこりと笑って言えば、怜は心底嫌そうに眉を寄せ、無言のままに階段を降りていった。美しいブルネットの揺れる後姿を、5歩後ろから眺める。