Paradise Jack
怜の所作は美しかった。
歩幅は、意図的に狭めているのだろう。油断すれば、すぐ怜に追いついてしまいそうだ。一般の女性以上に、女であることを意識し研究し尽くしているように見える。
―さすが、役者といったところか。
そういえば、昨年ヒットした映画の影響で、メディアがこぞって桐生怜二を取り上げたとき、映画製作者が雑誌で彼についてコメントを残していたのを思い出す。
『彼は完璧主義者だ。一瞬の美にすら気を抜くことはない』
それゆえに、共演者と仲違いをしたという話も度々聞くが、完成された作品を見れば誰しもが口を噤んだ。
これから、きっと順調に素晴らしいキャリアを積んでいく役者のはずだったのだ。こんなハプニングに見舞われなければ。
「おい、何してんだよ。早くこいって」
美女は、咥え煙草でこちらを振り返った。
ふたりで石畳の長い坂道を降りる。アパルトマンの周辺にはコンビニが少なく、坂道を下って5分程歩いた場所に個人経営の店が1店舗だけだ。