Paradise Jack
鞄ひとつ、長い上り坂を息を切らせながらのぼる。
『桜海町』
桜の海と書いて、"おうみ"と読むことは、この町にすむ作家を担当して初めて知ったことだった。
名前のとおり桜の木がいたるところに植えられていて、毎年春になると、この小さな町は薄いピンクで染め上げられる。
『町中に植えられている桜の花が散ると、まるで桃色の海のようなの』
そう教えてくれたのは小林秀宇。
現在、ベストセラー作家の名を欲しいままにする小説家であり、俺が担当する作家でもある。