Paradise Jack
「…ラッキーストライク」
天国に一番近い煙草、と言われる銘柄。なぜ、よりにもよってこれをチョイスしたのだろうか。
「煙草、声出にくくなるから控えようとしてたの忘れてた」
「さっきも吸ってたじゃないですか…。大体、いらないからって押し付けないでください」
溜息をついて、パッケージから一本取り出して、火をつける。独特の、癖のある味が広がった。
暗闇に溶ける紫煙を、歩きながら無言で眺めていたときだった。
「小林秀宇のマネジメントって、おまえがやってるわけ?」
沈黙を破るように、怜がおもむろに口を開く。
「そうですね。彼女の本は、星とヒバリ社が独占的に契約をしていますから。そもそも、小林秀宇の正体さえ、一部の人間しか知りませんし」
「…あれだけ馬鹿売れして、他のメディアへの展開はないのか?」
「勿論ありますよ。映画、テレビドラマ、ひっきりなしにオファーは届きます。けれど、実現はしない。なぜなら、小林秀宇が許可をしないからです」