Paradise Jack
ちらりと怜の表情を窺う。
「…残念ですか?」
シュウに無理矢理交換させられたのだという黒縁メガネの奥で、ブルーグレーの瞳が大きく見開かれるのが見えた。
「な、な…何言ってんだよ」
「ふふ。動揺しすぎですよ。案外、役の入らない桐生怜二はわかりやすい人なんですね」
「…悪かったな、役もない無職で!」
機嫌を損ねた怜は、眉を潜めて、足早に帰り道を歩く。その後姿を見ていると自然に笑いが零れた。
世界に愛された男"桐生怜二"。
美貌と才能を神から惜しみなく与えられた怜が生きる、小林秀宇の世界を見てみたい素直に思った。
それは、出版編集者としてでも、利益を求める立場でもない、単なる自分自身の欲求だから、きっとこの先現実となることはないのだろうけど。