Paradise Jack




真っ赤な口紅を塗りながら、当時6歳であったわたしにそう言ったのは、凛香さんだった。

きちんと血の繋がった"母親"であったけど、おかあさんと呼ぶと実に不満気に口を尖らすので、わたしは物心ついたころからずっと彼女のことを名前で呼んでいる。

凛香さんは、お酒が好きで、それよりもっと男の人が好きだ。

玄関で男の人とキスを交わすのを目撃したのは一度や二度ではないし、見るたびにその相手は異なっていた。


美しく巻かれた栗色の髪、整った顔立ちには上品に色がのり、いつも甘やかな香りを纏っている。

飾り立てることがとても上手な反面、家事全般は殆ど何も出来ないので、当然のごとく料理だって出来ない。大抵がコンビニ弁当とか出前なんかで済まされていた(…きっと、わたしがいまいち発育不良なのはこのせいなのだ)



『空なんて、飛んでないよ』



凛香さんがくつくつと笑う。

"おいで"、まるで猫の子でも呼ぶように手招きをして、ぎゅっとわたしを抱きしめる。これは、凛香さんが出来る"唯一の"母親らしいことだった。

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