ただ好きなだけ
愛「やっぱ、恐るべし健吾だね…」
こんなに近くにいる愛李の声が微かにしか聞こえない。
会場に着いた愛李の第一声。
なぜなら、そこには…可愛くお洒落をした女の子たちで溢れていたから。
健吾のことを知ってる人ってこんなにいたんだって、今更ながら実感するよ。
どんなにテレビに出てたって知らないもん。
それだけの人が健吾の虜かなんて。
って、ここに集まってる人なんてほんの一部なんだろうけど。
そう考えるとライバルの多さに、私の中の不安は一気に膨れ上がる。
愛「でも、こんな近くで健吾に会えるなんて、賢治ナイスだよ!!」
賢「俺もビックリ」
席は前から2列目のアリーナ席。
健吾のファンなら喜ぶべき席。
でも、ね?
何か喜べないんだ…。
きっと、私は健吾が出てきたら、一時も目を逸らさずに健吾を視線で追うのに…健吾は私を見てくれるのだろうか。
こんな可愛い女の子がたくさん溢れた会場で、たった一瞬でも私を見てくれるだろうか。
私に気付いてくれるだろうか。
不可能に近いはずのことを期待してしまう私はバカかな?
彼女の私がここにいるよ、ってそう思っても、健吾は私には気付かないのかなって。
私もここでは、たくさんいるファンの一人?
特別な誰かではなく?
そんな事を考える。
バカだよね。
初めての健吾のライブ。
健吾だって頑張るはずなのに。
私は、ちくちくそんな事を考えて。
本当に小さい人間。
……でも、気付いて欲しい。
そんな願望は不安が大きくなるのに、比例して、おっきくおっきくなっていくんだ。
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