ただ好きなだけ
会場が暗くなり、女の子達の歓声がどこからともなく湧き上がる…。


パッと光が差す方向には、今まで見たこともないような健吾が立っていたんだ…。


甘いバラードを歌う目の前の健吾。
いつも私の隣で笑ってる健吾。
同じ健吾のはずなのに、全然、違う健吾みたい。


未「あぁ、有名人なんだ…」


そんな当たり前の私のつぶやきは、横にいる愛李や賢治に届く前に、女の子たちの歓声に掻き消されていった。


本当に健吾?
私の彼氏?


健吾はバラードをしっとりと歌い上げる。
会場にいる女の子全てに捧げる歌のように…。
この曲を歌う健吾の脳裏に私は一瞬でも思い出されるだろうか。
こんな恋の歌、私は迷わず、健吾の顔が浮かぶけど…
健吾はどうだろう。
今、目の前にいるファンにやっぱりこの歌を捧げるのかな?
私ではないかな?


未「健吾、私ここにいるよ」


聞こえるはずのない声を出してみた。
けど、消えてなくなる。
健吾に届くはずはなくて、数十メートル先に健吾がいるのに…
特別な関係のはずの健吾なのに…
果てしなく遠い存在の人みたい。
< 24 / 76 >

この作品をシェア

pagetop