ただ好きなだけ
会場から逃げ出してもう30分近く経っていた。
愛李は健吾に夢中で気付いてないかも知れないけど……
賢治はきっと心配しちゃう……。
不安しか生まれないあの空間に戻るには、気が重いけど、私は秘密の恋を守りたいから……
涙で赤くなった目を、落ちた化粧を誤魔化してトイレを出た。
会場から漏れる、健吾の声。
その声が大好きだったのに……
その声を聞いた途端に、やっぱり会場に向かう勇気がなくってきて
せっかく、落ち着いた涙が溢れそうになって
上を向いて、溢れ出しそうな涙を必死に抑えている時、
「未愛?」と私を呼ぶ声が聞こえた。
振り向けば、賢治が壁にもたれて立っていたんだ……。
未「……賢治、何してんの?」
あまり、見られたくない光景を見られたような気持ちになって、私は満面の笑みを浮かべて、何事もなかったかのように話かけた。
賢「何してんの?は愛李だろう?なかなか帰って来ないし」
やっぱり、賢治って優しい。
こんな風に私も健吾に心配してもらったり、追いかけてもらったりしたな……。
でも、いつの事だろう……。
そんなマイナスな考えさえも吹き飛ばしたくて
未「ごめん、踏ん張ってた!!!!」
なんて、笑っていった。
きっと賢治も「踏ん張りすぎだろ!!」って笑ってくれるって思ってた。
でもね、違ったんだ……。