ただ好きなだけ


賢「…………」


笑ってくれると思っていた賢治の表情は真剣で、笑っていた私の顔からも自然と笑みが消えた……。


未「……賢治?」


今まで、バカをしてた賢治。
そんな賢治の顔はしてなくて、
真剣で、
今まで見たことない賢治の表情に
私は、もう言葉を発することができなくて
ただ、一歩一歩、歩み寄って来る賢治の瞳を見つめ続けるのに必死だった。


さっきまで聞こえていた健吾の会場から漏れる声も
会場のお客さんの声も
何にも聞こえなくて
今は一歩一歩、歩み寄ってくる賢治の足音しか聞こえない……。


賢「未愛?」


優しい声が私を包んだ。
あまりの優しさに私の崩壊した涙腺は、言う事がきかなくて
流したくない涙を、流してしまったんだ……。


いきなり泣き出した私に賢治は驚いてしまうんじゃないかって思ってたのに、賢治は案外冷静で、こうなる事がまるで分かってたみたいに……
健吾とはまた違う、でも健吾みたいにゴツゴツした男の手で私の頭を撫でてくれた。


“もっと泣け”
そう言ってくれてるみたいに暖かい手。
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