ただ好きなだけ


今まで、賢治は「恋をする気分ではない」って言ってたのに……。
ゼミの中では、ごたごたになりたくないからって言ってたのに……。


そう思う一方で、私を抱き締める賢治の心臓が、微かに早くビートを刻んでいるのも実感できて。


賢「ずっと、好きだった。入学式からずっと。」


知らない事実を私に突きつける賢治。
きっと現実なのに……
なぜか、賢治の発する言葉を私の頭はすんなり納得しようとはしてくれなくて……。


ううん、違う。
もし、賢治の言葉が事実なら、
今の弱った私は、賢治にすがってしまうんじゃないかって不安なんだ。
健吾が好きなのに……
賢治に頼ってしまうんじゃないかって。
だから、賢治の発する言葉が事実でないことを願ってしまう。
そうすれば、私は今まで貫いてきた、秘密の恋を守り抜けるような気がするから。
でも……賢治は、そんな風に思う私に現実を突きつける。


賢「笑ってる未愛が好きで、でも、最近の未愛は全然笑わない。」


こんなにも、私を思ってくれてる。
いつも、私に元気をくれてた賢治は、私が感じていた不安や孤独に本当は気付いていたのかもしれない。


賢治は、そっと私を離して、真剣な眼差しと視線がぶつかった。
今まで見た事ない、真剣な賢治の瞳。


あぁ、全部が現実だ。


私が、健吾との付き合いに不安が多すぎることも。
弱いってことも。
賢治に頼ってしまいそうなことも。
賢治が私に言った言葉の全て。
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