ただ好きなだけ
そんな時、私の携帯が誰かからの着信を知らせる。
ディスプレイには、“健吾”の文字。
さっき、あのステージで歌っていた健吾からの突然の着信。


さっき、賢治に告白されて
その答えから逃げた最低な奴。
そんな私は不謹慎にも、その着信が嬉しくて仕方なった。


いつぶりだろう……。


さっきの現実も、
不安や孤独も、
こんな些細なことで、影に隠れてしまう。


未「ごめん、電話」


そう言って、ひとごみから、離れて、通話ボタンを押すと


―――――――健『今、どこ?』


そう聞こえてきた健吾の声はいつもの優しい声ではなくて
さっき、ステージで聞いた甘い声でもなくて
イラついた声。


その声に戸惑う私は「………えっと」と答えに詰まってしまった。


健『未愛?どこにいんの?…………ま、いいや。パス出したから楽屋まで来て』


そう言った健吾の言葉を疑った。


“パス出したから楽屋まで来て”?


健吾……知ってんの?私がライブに来たこと。
< 36 / 76 >

この作品をシェア

pagetop