ただ好きなだけ
嬉しさのあまり、私はあふれ出す笑みを抑えることなんてできなくて、なのに……肩を抱かれたまま見上げた健吾の顔には、いつものような優しい笑みはなくて……不機嫌そうな表情をしてた。
楽屋に入って、健吾は私から離れて、椅子に腰掛けて、私をジッと見つめてくる。
そんな私は何て言ったらいいのか分からなくて……「お疲れ様」そう声をかけようと思ったのに…
健「……倉田賢治」
沈黙を破ったのは健吾で。
その言葉は何故か、賢治の名前。
未「え?」
健「なんで、賢治って男といた?」
聞いたこともない健吾の低い声に、思わず、びっくりしてしまう。
健「あいつ、モデルしてる男だろ?未愛は、有名人好きなんだな…未愛は、有名だったら、誰でも言い訳?」
言葉がナイフみたいに切りつけるって。
実際に感じたことってなかったけど。
初めて知ったよ。
言葉がナイフにもなるって。
優しく包んでくれると同時に、
心も切り裂いちゃうってこと。