ただ好きなだけ


未「賢治は友達。そう言ったのに。私が好きなのは健吾だけなのに……」


健吾といる時は泣きたくなかったのに。
笑っていたかったのに。
何で、涙は止まってくれないんだろう。
一緒にいれば、不安なんて一瞬で消えてたのに。


未「健吾は、私のこの気持ちも疑うの?」


いつも健吾だけを思っていた私の気持ちは、一番信じて欲しかった健吾にも疑われたら……この気持ちは、どうすればいいんだろう。


「なぁ、健吾。明日の仕事のことなんだけど」


タイミングがいいのか、悪いのか、健吾のマネージャーさんが楽屋に入ってきた。
私がいることに、マネージャーさんは“あっ”みたいな顔をしたけど。
私は泣いてて顔はぐちゃぐちゃだけど。
健吾も複雑そうな顔をしてるけど。
私は何事もなかったかのように「お仕事頑張ってね」そう健吾に告げて、楽屋を出た。


もっと話したいこと。
聞きたいこと。
たくさんあったのに……
今の私には、どうすることも出来なくて……


健吾が「未愛!!」と呼んだ声が聞こえたけど、振り返らずに走った。


親友に隠し続けた恋。
賢治の気持ちを踏みにじった私の守りたかった恋。
私が大好きな健吾への気持ち。
でも、健吾は、この恋を、私の気持ちを疑ったね。


信じてくれてるって思ってたのに。

大勢いるファンの中から、私を見つけてくれたこと。
嬉しかったのに。

久々の電話にドキドキしたのに。

早く会いたくて頑張って走ったのに。

警備のおじさんに“彼女”って言ってくれた、それだけで幸せだったはずなのに。


今、どうして私はこんなにも悲しい気持ちになっているんだろう。
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