ただ好きなだけ


未「よし、できた……」


キッチンに広がる甘ったるい香り。
目の前には、チョコレートケーキ。
健吾のために作った。


あの日。
健吾と喧嘩みたいになって、健吾に電話どころか、メールすら出来なかった。

「お前なんていらない」
「別れよう」

そう言われるんじゃないかって思うと、ボタン1つで健吾と繋がる電話もメールもできなかった。


もちろん、健吾からの連絡もなくて。
あの約束が有効なのかも分かんなくて。
仕事がいつ終わるのかも分かんなくて。
家に戻ってきてくれるのかも分かんなくて。
喧嘩したままで、仲直りもしてなくて。


……でも、好きなんだ。


賢治のことを疑われても。
信じてもらえなくて。


やっぱり、健吾が好きなんだ……。
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